COLLECTION REVIEW

コレクション レビュー
寄稿 白澤貴子

朝からしとしとと降っていた8月28日、夜まで続くかと思われた雨は夕暮れが近づくにつれて、
何かに促されたかのように静かに音を止めた。

それに替わってどこからともなくやってきたのはグリーンの爽やかな、
でも青々とした真夏とはもう違う、深く穏やかな薫りだった。

この日私が訪れていたのは都心では数少ない、豊かな自然と洗練モダンとの調和を感じられる敷地、
東京都庭園美術館。

この空間で、先シーズンのデビューと同時に大人の女性たちの心を鷲掴みにしたブランド、
LE PHILの本格ローンチを記念したインスタレーションが行われるという。

集まったクリエイターや編集者など、それぞれ種類の違う植物の葉が
ランダムに封入された13通りのインビテーションを手に持ち、
THE GARDENという今季のテーマへの想いを至るところに感じさせる会場に招き入れられた。

間も無く始まったショーで次々と発表されていくルックをひとつひとつ目に焼き付けているうち、
全方位どこから見ても抜け目がないのに、
抜け感も共存させた服たちの旋律に、目を見張ったのは私だけではないだろう。

そう、当然のことだけれど、どんな女性も、
スタイルよく上質に見える服は気分がいい。

佇んでいても歩いていても、フロント、バック、
サイド全てから美しく見えるようパーフェクトに計算されたデザインと、
誰もが一目でわかる生地の質の良さはいつの時代も大人の服の理想だ。

でも、それだけではワガママな私たちには不十分。
上質素材をベーシックに作り上げただけでは大人を野暮ったく見せる危険性がある。
だからといって、実際の身体の形を無視した立体的すぎるデザインでシルエットを単一的に形作られると、
どんな人が纏っても服の印象しか残らない上に、気張りすぎに感じてしまう。
尖った都会感も、気の抜けすぎたリラックス感も今は気分と違う。

難解にも思える私たちの理想をさらりと上手に形にしてしまうLE PHILは、
美しいフォルムは抜け目なく構築する一方で、印象にはぬけ感を漂わせ、絶妙な上質着を作り上げる。

それは、今の自分らしさに寄り添いつつ、
見た目も気分も数段引き上げてくれる服。
纏えば本質的な自分を呼び醒まし、自信や洗練さえもたらしてくれる。

目指すは、自然と共存しながら都会的な部分もバランスよく持ち合わせる、
ナチュラルな趣のままで美しい自分。
クリーンさとリッチさ、ほんの少しの媚びないレディな表情に、
潔くハンサムな趣…そのすべてをちょうど良いさじ加減で兼ね備えた真の大人。

街やネットに溢れる服の中から1着を選び抜くことがあまりにも難しく、
自分らしさや求めるものまで見失いがちだからこそ、
ここで感じたものを大切に、記憶にとどめたい。

そんな風に思いながら家に戻って開けたお土産のアロマは、
あの雨上がりの会場に漂ってきた薫り、そのものだった。

寄稿 白澤貴子